脳トレリズム体操が及ぼす生理心理的影響の評価実験報告書
2019 年 9 月 27 日 株式会社 TAOS 研究所
1. 背景
NPO 法人ダンスライフコミュニケーションズは、脳トレリズム体操を実践している。脳トレリズム体操とは,ハンドゲーム(知的刺激)とリズム運動(有酸素運動)を融合させたデュアルタスク体操であり、脳と身体、心を活性化させることを意図している。しかしながら、今までに脳トレリズム体操の定量的評価は行っていない。そこで本実験では、脳 トレリズム体操が及ぼす生理心理的影響についての検討を行った。
2. 目的
本実験の目的は、生理心理指標を用いた脳トレリズム体操が生体に及ぼす影響の定量的評価である。
3. 実験方法
脳トレリズム体操の前後に、2 分間の脈波計測と日本語版短縮版 POMS【1】を用いた心理アンケートを行った。実験参加者は事前に実験の目的と方法について説明を受けた。そして、実験参加者本人から実験参加や個人情報の取り扱いについての書面による同意を得た。
実験場所:2019 年 8 月に実施
実験日時:株式会社 TAOS 研究所
実験参加者:男女 8 名(平均年齢:47±17 歳)
実験プロトコル: POMS → 脈波計測(2min)→ リズム体操(30min 以上)→ 脈波計測(2min)→ POMS
4. 解析方法
脈波: 脈波からピーク検出を行った後、PPI を算出。その後,心拍数の算出や周波数分析を行った。また、脈波のデータを用いてカオス解析を行い、最大リアプノフ指数とエントロピー を算出した。
POMS:6 つの気分尺度:緊張−不安 (T-A),抗うつ−落ち込み (D)、怒り−敵意 (A-H)、活気 (V)、 疲労 (F)、混乱 (C) のT得点をそれぞれ算出した。
統計的評価方法: Wilcoxon の符号順位検定を用いて、体操前後の各指標の統計的評価を行った。
5. 結果及び考察
5.1. 生理指標
図 1 に脳トレリズム体操前後の各生理指標を示す。
心拍数: 実験前後で心拍数が上昇した(p < 0.1)。よって、脳トレリズム体操中には交感神経が優位になると考えられる。
TP: 実験前後で Total Power に有意差が見られなかった(p > 0.1)。TP は精神的疲労に関する指標であり,脳トレリズム体操は、精神的疲労に有意な影響を及ぼさないと考えられる。
最大リアプノフ指数とエントロピー: 実験前後で最大リアプノフ指数が有意に上昇し(p < 0.05)、エントロピーが減少した(p < 0.1)。最大リアプノフ指数とエントロピーはカオス解析の指標の一種であり、最大リアプノ フ指数の上昇は、認知機能や脳活性状態の上昇を意味する報告もある【2-4】。したがって、脳トレリズム体操は脳活性化状態を上昇させる作用があると考えられる。
5.2. 心理指標
緊張−不安 (T-A)と怒り−敵意 (A-H)が体操後に有意に低下した。よって,脳トレリズム 体操には心理面において緊張や怒りを抑える効果があると考えられる。
6. 結論
本実験は、生理心理指標を用いた脳トレリズム体操が生体に及ぼす影響の定量的評価を目的に行った。結果、脳トレリズム体操は、脳活性化状態を上昇させ、緊張や怒りを抑える効果があると明らかになった。
参考文献
【1】 横山和仁. (2005). POMS 短縮版手引きと事例解説 金子書房.
【2】Miao, T., Oyama-Higa, M., Sato, S., Kojima, J., & Reika, S. (2012). Chaos of plethysmogram in relation to scalp-EEG: a model and experiments. International Journal of Computer Aided Engineering and Technology, 4(6), 557-566.
【3】 Oyama-Higa, M., Miao, T., Hirohashi, Y., & Matsumoto-Mizuno, Y. (2009). Analysis of dementia in elderly person using nonlinear analysis of plethysmograms and effect of communications. In Proceedings of International Symposium on Early Detection and Rehabilitaion Technology of Dementia (Vol. 2009).
【4】今西明, & 雄山真弓. (2009). カオス解析における設定値の差異が解析結果に与える 影響. 人間工学, 45(2), 141-147.